一流レストラン・シェフの証明として世界的に認知されているミシュランのレストランガイド「レッドブック」。
2008年の日本版発売時に巻き起こった星獲得の狂想曲も記憶に新しい。たった一つの星を得るだけでも至難の業であるこのガイドで、1999年から‘三ツ星’を獲得し続けているのがオーナーシェフのミシェル・ブラス率いるフレンチレストラン「Bras-Michel et Sebastien 」である。
世界中の食通ばかりか同業の一流シェフ達からも畏怖と尊敬の念をもって称えられる憧れであり、世界最高峰の料理人の一人といっていいだろう。日本国内ではウインザーホテル洞爺に唯一のレストランが存在する。そんなミシェル・ブラスが完全監修し、こちらも世界に冠たる刃物のトップメーカー「KAI」とのコラボレーションによって2005年にリリースされグッドデザイン賞を受賞した包丁が、その名も『MICHEL BRAS 』である。
●運命の出会い
両者の出会いは7年前に遡る。来日経験も多く、もともと日本の包丁に信頼度をもっていたブラスさんは、毎年ドイツで行われる消費財見本市でKAIの「旬」という包丁に出会い一目惚れ。「この会社だったら、理想の包丁を作ってくれるに違いない」と直感したという。
一方、KAIの遠藤宏治社長も洞爺ウィンザーホテルにある「MICHEL BRAS」で食事をした際、コース料理の間、ナイフだけは変えず1本で通すというナイフを大切にするスタイルに、刃物メーカーのトップとして強く感じ入っていた。
実は、二人のパックボーンには驚くほど共通点が多い。
故郷であるオーブラックと美濃は、高原と平野という違いこそあれ、大自然の色濃い内陸部にあるということ。ブラスさんの生まれ育ったライヨルと遠藤社長の関市は共に刃物の街。
ライヨルナイフで知られるライヨルには、大人への通過儀礼の一つとして親が子にナイフを贈り一生大事にするという習慣がある。遠藤社長もまた小さい頃から身近に刃物のある暮らしを営んできた。
ブラスさんの父親は鍛冶職人であり、遠藤社長は刀匠の叩く金槌の音を子守唄がわりに育ってきたのである。そういう意味では両者は、出会うべくして出会う運命にあったのかも知れない。
●包丁は手の一部
「ミシェル・ブラス」の名を世に知らしめたスペシャリテに「ガルグイユ」というハーブ&野菜料理があるが、いまでも自らハーブや野菜を摘み、下ごしらえまで自分でするブラスさんの包丁に対する理想は高い。 それは一言でいえば「手の延長線として包丁が手と一体化すること」フレンチでは良く包丁を使わずに食材を手でちぎったり、まな板を使わずに空中でカットするが、その再現を求められたのである。「理想は正しく研げ、バランスが良く、手にしっくりとなじむこと。正しく研がれていない包丁で素材を刻めば、傷つけるのと同じこと。傷つければ、素材からは‘血’が失われ、死んでしまう。自分の手の一部になりえる包丁を使えば、どんな素材も傷つけることなく、生きた状態のままで料理することができる」とブラスさん。
口で言うのは簡単だが、実現するのは至難の技。ブラスさん自身が描いたコンセプトデザインを基に、何度も試作を重ね、実際に彼自身が使ってみて修正を繰り返し、完成するまでに2年の歳月を要した。KAIの従来の生産ラインは2~3割しか使えず、試行錯誤の末に全く新しいラインと設備を導入しなければならなかったほど、情熱と労力の注ぎ込まれた包丁なのである。
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